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シネマ旅の途上にて

自主映画ウォッチャー、アWorkerのブログ。

潔癖の疑問符

主水日記。

世間的話題作、と称される「NANA」を観に行った。

平日午後とはいえ、喧伝されるような<続編決定作>ならばさぞかし以前の「下妻物語」や「スウィングガールズ」に匹敵する大入りロングヒット、と思いきや、客は10~20代男女数組のみ。
あれ?公開から大分経ってるせいか?
でも、とにかく観る。

ひとことで言えば、ビジュアルバンドの支持層にはおそらく夢のようないい話、なのだろうな、と。
お話も<定番>ながら悪くないし、普通に感情移入はできる。
けれども同時に、その描写・展開の具合にやや拍子抜けもした。

上京女性2名(以下、ナナA・ナナBと仮称)および上京青年達の生活自立と友情、バンドに賭けた青春像を描くものだが、それにしては青春期のなまなましさ、汚らしさをも含めた生活描写というものが全然無く、随所で意図的に省略され続けているのが大変気にかかる。

東京・横浜・多摩美大以外の具体的地名も、ライブバンド出身ヒロイン・ナナB(芝居は・・・まあまあかな)の故郷・雪国の駅名以外は極力省かれ、ベーシスト青年の棲み家も港町の近くらしい(小樽か?)のだが劇中の地名ははっきりしない。ライブハウスにしても横浜、と登場人物が言うので判明するが、言われないとどこのライブハウスだか多分よくわからない。
あえて地名と結びついたイメージの特定化を防いでいるのが伺える。

悩める自立願望ヒロイン・ナナAの故郷もあえて田舎の藁葺き屋根に鶏、みたいな典型的イメージの建物を使わず、地元のコンサート会場もNHKホールめいており、まるで東京近郊都市のよう。(土地安いから、にちょっと笑う。ああいうものかも・・・。)

全体に白っぽいアパートのセットや照明光の下、画面の端から端まで、お部屋の隅々まで消臭剤・脱臭剤を多用し無菌室化したがごとく、<きれいに、きれいに>掃除がゆきとどいており、往年のハリウッド・ミュージカル映画か戦後フランス映画のヒロインのごとく着飾ったナナAの可愛らしさ、芝居のうまさをいよいよ補強する。
(ナナAの掃除姿の衣装まで正にメイドのようだ!狙ったのか?)

ナナBとベーシスト青年の入浴対話シーンも又、あたかも化粧品CFかのようになめらかに、つややかに描かれ、およそなまめかしさとは程遠い。

この映画世界においてはそのように一事が万事、きわめて抽象的かつ潔癖症的描写に終止している。

思うに、原作(未読)が女性向け漫画だから世界観をできるだけ壊さないように、かつどこの出身者の誰にでもとっつきやすく思い入れしやすい設定・内容になるように、との配慮が映画内世界の細部にまでなされ、行き届いた結果だろう。多くの10~20代女性向けテレビドラマ企画と同様の発想・手法である。
「アベック・モン・マリ」「とらばいゆ」の監督が呼ばれた理由もまずは描写目的上の適性、ゆえであることは明白。
いまやそこまでデラックスな、現実を知りながら現実を忘れさせてくれる映画を創ること自体が困難になっている昨今、監督組はよく頑張っている。

ただ、正にその清潔さと抽象性ゆえに、逆に映画表現であるゆえの魅力となるべき画面の運動性、ひいてはそこからもたらされうる心理描写の<揺らぎ、揺らめき>が期待したよりは少なくなっている、という不満も同時に発生するという困った状況も又、現出しているのだった。
ライブ音楽シーンのリズムほどには、映画自体のリズムが乗せてくれないのだ。

全国公開を意識するあまり<擬似東京風TVドラマ>式に脱色しすぎではないのか?との疑問もぬぐえない。
興行的にはそういうものだ、という見識は商業映画だから当然あるだろうが、地方と都会を描く、というのは果たしてそういうものなのだろうか?
ライブファン女性とバンドボーカル女性、というキャラ対比とコンビネーションの効果は大いに出ていて、かなり引き込まれるのだけれど・・・。
家で観れる連続TVドラマでの展開・描写以上の何か、がもう少し欲しかった。次の場面展開がところどころで読めてしまうのも弱い。
終盤の展開を<意外性薄し>と見るか、<望ましき案の定>と見るかで、この映画の好き嫌いはほぼ決まるだろう。
小生はすれすれ後者、だった。

(抽象化と潔癖性だけが地方出身青年像の魅力的<全国向け>描写と限らない事は、特定県出身者大集合のインディーズムービー「福井青春物語」が対照的、かつ生き生きとした描写を持つ存在として、みごとに証明している。)


「NANA」という名の熱帯魚、ヒロインコンビの印象。
ナナA、白いエンゼルフィッシュ。
ナナB、尾の長いブルーのグッピー。

「ランブルフィッシュ」の夜明けには、まだ間があるぜ・・・。

以上。

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  1. 2005/09/29(木) 23:04:27|
  2. 劇場用映画
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  4. | コメント:1
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コメント

あらうれし

その「福井青春物語」、渋谷アップリンクXの<新生>アップリンクファクトリーで公開決まりましたぞ!今月22日より一週間上映。
津田寛治&山本浩司コンビ出演。
福井インディーズ映画界の雄・森川陽一郎監督。是非観とくべし!
  1. 2005/10/12(水) 19:39:33 |
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  3. アWorker #-
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