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シネマ旅の途上にて

自主映画ウォッチャー、アWorkerのブログ。

行者の先生、念力珍作戦する

主水日記。


その余りのゆるみっぷりに、大いなる不満を、抱く。
しかしその一方で、確かなる豊かさの手ごたえをも、同時に得ることになる。
立若正昭監督の最新作、「DEAD AND ROLL」は、そんな妙なおもしろさを含み持った映画なのだった・・・。

白状すれば、この作品の案内チラシ(小さいほう)を某知人出演者から貰ったとき、ただちに戸惑いを覚えたのだった。
主演らしき青年が怒り、叫んでいるらしき写真。
「犯罪」「殺され」「人質」「拉致」「幽霊」「瀕死」「あの世」「暴走」「必死の救出劇」などの物騒な文句が躍る、ストーリー紹介。
しかも写真や予告編の様子だと、御存知宮川ひろみ嬢が、本格的冷酷悪女役になっている模様・・・。

うわー、何だか、コワそう。痛そうな映画だな。
よそうかな、観るの・・・?と悩まされたが。
いや待てよ、この筋だともしかしたら、「跳べ!必殺うらごろし」みたいな、泣かせる<霊魂ハードボイルド・ヒーロー>路線が期待できるかもしれない・・・。

結局、出来が気になって、土曜夜に観に行ってしまった。
毎度おなじみ、池ノ上シネマ・ボカンまで。
金・土の夜19時半、という分散型プログラムではあるが、出演者・関係者が結構集まっていて、客寄せもまずまずだった。


で、結論からいえば・・・。
期待の半分はどこか拍子抜けした映画内描写とともに、すぽん、とはずされてしまった。
こちらが勝手に夢想した、<霊魂ハードボイルド>とは程遠い。

勿論、鈴木明日香嬢の演じる、
最初は任務に忠実なだけのクールさを強調しながらも、
次第に<いつもの鈴木明日香>寄りになってゆくユーモラスな<お迎え人>役キャラもあいまって、
じつにユーモラスなファンタジーではあるのだが。

大筋は、現金強奪計画とその成り行きをめぐるサスペンス、それにからんだ者達の人間模様のドラマ、そこへ「ゴースト/ニューヨークの幻」や「14g」等のオカルト・ファンタジー世界を掛け合わせたもの、なのだが。
全体としては、画面自体のアクション性が、やや弱い。
各シーンの芝居がやや長めに採られているため、ストーリーと場面展開のテンポが、いささか、かったるいのである。
(また、来たよ・・・!の声)

殺されて幽体になったり、恋人の安否を心配したり、
あるいは金銭強奪計画をめぐるトラブルで追われていたり、
瀕死の重傷で成仏寸前だったり、
ライブハウスが閉鎖寸前だったり・・・
と、各人が皆、相当切羽詰った、余裕の無い状況下のはずなのにもかかわらず、互いに状況説明する各シーンの暢気な長め感が、それらのサスペンス要素を、やや希薄化している。

毎度毎度、この登場人物たちはいったい何をもたもたと、小田原評定まがいの議論や、心情吐露の芝居や、助っ人スカウトの会話を、こうも長々とやり合っているのか?
と、愚にもつかぬ疑問を観る側に抱かせてしまうのだ。

例を挙げれば、ライブハウス(ああ、なつかしの池袋・SCUM2000!今や貴重だ)を運営する、
金欠だが行動力があって、人間性としては非常にいい奴であるところのマスターが、
一時は現場での騒動に巻き込まれて逃げながら、
その後の時点で唐突に、元のライブハウスまで戻ってオーディション?を行なっているシーンを観て、
なんて時間に余裕を持ったのんきな人なんだ、と思わない観客がいるだろうか?
なぜ直接、現場周辺から携帯で助っ人候補達に緊急連絡・召集をしないのか。そのほうが早くないか?

そうやって長々、しゃべっている時間中になぜ登場人物たちは、
犯人達や恋人の行方を追ったり、あるいは追っ手の警官や組織から逃げ隠れしたり、そういう具体的な行動・アクションをしないのか。
なぜ彼らは、移動しながらアクションして、画面にリズムを与えようとしないのか?

それになぜ、追っ手たる組織の一味(3人)が途中に現れて発砲しただけですぐに消え、それから最後まで、全く姿を見せないのか?
かんじんの現金を、取りに現れないはずがあろうか?

・・・などという素朴な疑問と不満が、次第に生じてくるのだ。

主役のはずの青年2人とヒロインに、若々しさや映画内での存在感がやや希薄なのも、気にかかる。
もっとも、射殺された男の幽体と、瀕死のバンドロッカーと、縛られて動けない人質役なのだから、いきなり生き生きしすぎて見えても、困るのだろうが・・・。
3人とも各場面には、情感芝居が概ね、しっくりはまっているから、まずまず、手堅い好演といっていいだろう。

で、肝心の、幽霊がらみでのいわゆる<オカルト的現象>だが。
ごくごく必要最小限、限定条件化で省エネルギー仕様、とでもいうべき小規模のものに限定されているため、
目に見えて派手な飛躍シーンは殆ど、皆無に近い。
やるのに集中力が必要で大変そうなのは伝わってくるが、
情念とアクション性の入り混じった画面の飛躍への期待感は、大幅にしぼまざるを得ない・・・。
(スプーン曲げで30分間特訓、とかできないか・・・?の声)

好感度など振り捨てて?猜疑心深き悪女役で終始気を吐く、
宮川ひろみ嬢の見事な力演と、やや張りのある弾着シーンが無かったなら、
この映画は一歩間違えれば、たちまちサスペンスの支柱を失って、空中分解しかねなかったことだろう・・・。
じっさい、幽霊役自体よりも、コワく見えるくらいである。
(勿論、本人じゃなくて、役が、だよ!の声)
よくぞ引っ張ってもたせた、というべき功労者なり。


では、この映画はまったくつまらないのか?と問われれば、
とんでもない、そんなことはないよ、随所で面白いよ、と答えざるを得ない。
妙な映画、というのはここなのだ。
どこか一本、ねじのゆるんだ?コミカルな登場人物たちの魅力もさることながら、
この映画の中には、ありがちの凡庸な表現を越えかけた、とある興味深いシーンが、挟み込まれているのだった。

好例が中盤、2大(!)自主映画女優が画面上で初めてはちあわせする、自動車内外と<浮遊する物体群>のシーンに見られる。
<見えざる手が見える物を動かし、車内の人物を驚かす>というミニ・オカルト・シーンの撮り方が、おもしろい。

もしありふれた凡庸な表現選択だったら、撮るにあたってその物体を棒と糸か紐ででも吊り上げ、左右に振って動かして撮り、後からCG処理で紐を画面から消す、という作業を行なっていることだろう。
しかし、立若監督、その手法はあえて使わなかった。
代わりに選び取った撮影法とは・・・

まず、車内の人物が、窓の外から飛んで来る物体と、そのぶつかる音を不審に思う。
じきに周囲の奇妙な現象に気づき、車内の一人を見廻りに行かせる。
その直後、外から別な人物がある意図を持って訪れ、車窓の前で物を動かしてみせる。
しかしその人物は車内に残った者には姿が見えず、物体の動きだけが見えるため、車内の者は戸惑わされる。

さて、ここのシーンには、前述のような釣り糸・CG等の加工や、今ここでは外の人物の姿は消えているよ、という解説のためのお約束的フラッシュバック描写等は一切、見当たらない。
するとどうなるか。

外に居る人物の嬉々とした表情と、車内の人物の戸惑った表情が丸見えのまま、観客だけが、その状況を理解できる画面になって、
ああ、きっとあの人には現象だけが見えるんだな、
という想像力を、観客の側に喚起させ、笑いすら生むのである。

すなわち、<車窓の外-車内の人物-観客の視界>、という、視覚の二重化・三重化が起きるのである。
そこらが、大変に面白い。
<映画>を観る楽しみの核、とは、たとえばこういう発見を促されること、なのではないか?

こうした視覚を多重化する仕掛けが、善悪対峙のクライマックス・シーンでは、若干合成入りではあるが着実に、その実を結んでいる。

又、概ねハートフルな決着を一同が見い出しながら、
フッ、キマったな、と思った次の瞬間、
ラストで叫ぶ人物の決め台詞には、いわば自己パロめいたおちょくり加減の可笑しさを、食らった。
見事にすべてをさらわせる、したたかさ。油断ならない。


立若監督チーム、だてに「FB2nd」の鶴岡みゆき組やR-1グランプリ系列の現場に、かかわってきてはいない。
更なる面白さを生成しうる何かを、既につかみかけている。

後は、鶴岡組の構成・編集の妙からも、もっとキレを学び取って、より面白いエンタメ・シネマへ向かって、技を磨いていっていただきたい。
その萌芽は、たしかに見届け、受け取った。




以上。
















作品中に出てるSCUM2000の<シネマキャバレー>で、<生誕祭>を挙行した、女性監督といえば。
20日(土)は昼間から、山内洋子監督の新作も、お披露目しているはず。
あいにく昼間は仕事の都合で空けられず、行けなかったのだが。
反応、どうだったのかな?
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  1. 2007/01/21(日) 00:44:45|
  2. インディーズムービー
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