旅人、覚書。
世間で評判になっているからといって、自分にとって爽快な、おもしろい映画かどうかは、観ないと何ともいえない。
ただ、予告編や雑誌紹介の段階で、自分に合うかどうか、ある程度の勘が働くことはある。
「Shall We Dance ?」のハードな展開で、老後にソシアル・ダンスに行く楽しみがあらかた失せてしまった過去の苦い経験から、「フラガール」に関しても又、その種の警戒感を、観る前から小生は抱いていた。
そしてその勘は6割がた、当たっていた・・・。
この<実録>映画がミニシアターからシネコンへとヒットしたのは、よくわかる。
素人チームが上達、成長し、仲間意識をはぐくんでゆく話は、たいてい、一般的世間からは好意をもって迎えられる。
「ウォーターボーイズ」、「スウィングガールズ」、「がんばっていきましょい」、「シムソンズ」、などの線に近しい話ゆえに。
違うのは、「フラガール」本編にはそれらの先行した映画に比べて、心情描写にも画面にも、すがすがしさ、軽やかさが大幅に欠如していること、なのだ・・・。
実話が元だから仕方ないのだが、とにかく、炭鉱町の衰退、失業、事故、新事業への不信感、親子喧嘩、よそ者への反感、PR作戦初期の失敗、などなど、追い込まれた町の状況をめぐって人間関係のこじれる逸話が羅列され、延々と続く。
おっちゃん達も母親もダンサー先生も、しょっちゅう、怒る。
ひたすら哀しく、貧しく、つらく、怒りに満ちてきつく、わびしいものばかり。
セピア色と灰色にくすんだ画面がそれらのわびしさを、余計に強調するので、たまらない。
これでもか、という程に続くので、中盤までで気分がかなり、落ち込んでしまう。
発端のダンス先生登場(「カルメン故郷に帰る」がちょっと浮かぶ)や立小便シーン、ぎこちないダンス練習シーン、風呂での乱闘、座布団投げ、方言での師弟のユーモラスなやりとりなど、コミカルな部分もそれなりに多く、そこらだけは少し笑えたのだが。
随所で怒気にみちた、ストーリー全体の暗く哀しい空気がたまらなくて、ユーモア・シーンの効果を相殺する。
生活状況は悪化するが、バンドは残っている「ブラス!」と、近しい世界。気分が滅入る。
出てるみんな、わかった!
つらい状況なのはもうわかった!
プロを目指してる覚悟も、わかった!
だから、早くダンス・シーンに行ってくれ!
と、心中ずっと、叫び続けた・・・。
それらのつらさにずっと耐えて観てきて、ようやく、終盤の明るく花咲く激しいダンスで画面が弾み、ダンサー達が映えてくる。
そこまでの暗さが、嘘のように消し飛ぶ。
松雪泰子の短気な酒飲み先生、蒼井優の高校生、徳永えりの幼馴染、山崎静代(漫才師のしずちゃん)の大柄弟子、と女優はみんな存在感と表情、ダンスなどがすばらしく、文句なし。
その一方で、岸部一徳や豊川悦司の存在感は周囲のおっちゃん達に比べて、やや希薄に見える。
女優達を目立たせる為にあえて、抑え目にされているのかもしれない。
昔の松竹映画みたいに、普通に泣きたい人には、いいかもしれない。
ただ、そこのカタルシスに到るまでの過程が、あまりにも長く、苦しいものだった・・・。
観ているこちらは正直、やっとマラソンランナー・ゴール、の心境なのだった。
いい苦労話なんだけど、でもやっぱり、十分楽しくはなかった、と結論。
以上。
同じ李相日監督の「69」は、妻夫木聡の主人公が植木等映画の無責任男みたいなキャラで、愉快なんだけどね・・・。
ぴあフェスでグランプリ・デビューした「青~CHONG~」だって、普通の在日北側高校生の青春を、気難しく力んだ<激情社会派>的芝居抜きで、普段の日常の延長として淡々と描いていたから、新しかったのだ。
ああいう、肩の力を抜ける方向の映画を、もうちょっとやってほしい。
で・・・
結局はみんな、草刈民代のあのソシアルダンサー役が、悪いんだ!?
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- 2006/12/03(日) 02:16:27|
- 劇場用映画
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