続・八丁堀の日記。
2月20日、土曜、午後。
池袋・新文芸坐。
森繁久弥・追悼特集、最終日。
やはりというか、白髪交じりのおっちゃん、お父さん達が、
客席とロビーを、うずめていた。
今日は、「吉田学校」「海峡」と、
80年代東宝系大作映画、2本立て。
(「日本沈没」の、森谷監督特集だなあ・・・の声)
この2本に対しては、昭和クロマニヨン原人としては、
若干の懐旧を含めた、少なからぬ感銘を受けたのだが。
同時に・・・スターシステム的大作表現ゆえの、
ある限界点をも、感じ取らざるを得なかった・・・。
「吉田学校」では、
伝説の外交政治家・吉田首相になりきって、
堂々と演じている、森繁久弥の見事なる貫禄ぶりに、まず感心させられた。
大物ライバル・フィクサー役・若山富三郎との、
数頼み、権謀術数な内部抗争、裏技対決の数々、
不謹慎だが、バトルゲ-ムを観るような、
黒いユーモア?含みの<面白さ>があることは、
くやしいが、認めざるを得ないのだ・・・。
藤岡琢也の、期を見る変わり身の調子良さなど、爆笑ものである。
客席のおっちゃん達は、よく笑い、
「ああいう、もんなんだよなあ~」などと、上映後も評し合っていた。
そして「海峡」は、
おそろしく長期にわたる、海底トンネル貫通工事の大河物語を、描いている大作。
風景撮影の迫力、
トンネル大工事・大湧水・崩落シーン等の、有無を言わせぬド迫力、
父親的存在の現場監督になりきった森繁の、演技の素晴らしさなどには、
大作路線ならではの重量感に圧倒され、
文字通り、呑みこまれた。
総力結集、底力、と呼ぶにふさわしい仕上がりだろう。
だが・・・それらメイン・ドラマ以外の、途中のシーンになると、
両作品とも、
有名スター達に、見せ場を与えるためのムーディー芝居、という印象が、
感銘を、やや上回ってしまい、
一部のシーンでは、空々しくすら映ってしまう気がするのが、
何とも、惜しいのだった・・・。
まず「吉田学校」についていえば、
われわれがTVのVTRで、何度となく目にしている、超有名政治家を、
スタイルのよい、あまりにもかっこよすぎる(!)西郷輝彦が、
気持ち良さそうに?かっこよく演じている様は、かなり面白い光景なのだが、
これが映画で無く、舞台劇だったならば、
それほどの違和感を、感じなかった事だろう。
他の出演者たちもほぼ、同様の印象を、観客に与え続けている。
スタイルの良い俳優揃いの、オールスターキャストである贅沢さが、
なまじ、TV映像に映る人々の、なまなましい記憶があるがゆえに、
これは、モデル的に美化してあります、という印象を、
かえって、強めてしまっている点は、否めないのだ・・・。
大人物や俳優の、スター・イメージというべきもの自体が、
80年代には既に、
TV報道の<印象リアル感>(事実検証の意味とは、別の・・・)によって、
かなり、おびやかされてきていた、
これはその、象徴的光景ともいえよう。
そのような「すごいんだが、困った・・・」な印象は、
「海峡」のほうにも、残念ながら多々、見受けられる。
トンネル工事にかかわる人々の、リアルな苦労話はすさまじく、
間違いなく、見る者を圧倒する。
その一方で、いかにもフィクション・ドラマ風な、シーン展開が存在する。
主演俳優を高倉健にしたのは、決して間違ってはいない。
邦画スターとしてのの、男らしいスターイメージに即したとおぼしき、
いかにも劇的?な、吉永小百合や三浦友和の出現エピソード、
男女2人の情感シーン表現、
大谷直子の女房との、すれちがったやりとり、などなど。
だが、本来、工事苦労人達への感情移入を、
強化すべきはずの、これらのシーンが、
逆に、どこかよそよそしく、
時として、素直な感情移入を、拒んでいるようにも、
見えてしまうのは、なぜだろう・・・?
つまるところ、作る側にすれば万全なはずの、
スター・イメージ強化策の印象が、
かえって、本筋ドラマ自体への感銘を、薄めている、
そんな空気を、こちらではいつのまにか、
そこかしこに、感じとってしまっていたのでは、ないだろうか?と。
また、現代的(というより80年代的)東京の光景が入り込む、
「海峡」の終盤などは、
そういった種類の空疎さの、象徴的光景となっており、
そこまで作ってきた、和風社会的情感世界は何だったんだ?
という印象を、与えられてしまう・・・。
(せめて空港の所までで、止めるべきだったんだ・・・!の声も)
フルコースの満腹感に、たっぷりと浸りながらも、
まだ、満足はしきれていない、
青年老い易く、スター成り難き・・・という、
いささか複雑な気持ちを、抱えたまま、
次の場所へと移動するべく、劇場を、後にしたのだった。
そちらでの話は、次号。
以上。
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- 2010/02/21(日) 09:39:06|
- 劇場用映画
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