観客、です。
以下、報告。
26日、日曜までに、
<PFFアワード2009>のコンペ16作品、すべて、観終わった。
曜日を調整すれば、一通り観られるプログラムになっていたのは、
大変、ありがたかった。
去年既に、多摩で、
加治屋彰人監督の壮絶なる力作、「chain」を観ているので、
これのすさまじき、強烈なイメージを、超える作品はあるか?が、
小生めの今年の、鑑賞テーマであった。(注1)
しかしながら、デ・ジャブ感から免れえた、大きな飛翔を見せた作品は、
今回、あまり見当たらなかった。
どうしても、かつて観た別な作品群の映画内イメージと、
重なってくる印象を、受けてしまうのだ。
無論、それは必ずしも、悪い事ではないのだが。
いい似方、というのは、確かにあるのだ。
たとえば・・・
商売交渉の上手な、中国人留学生が主人公の、
任書剣(れん・しゅーじぇん)監督・「私の叙情的な時代」からは、
過去のPFF受賞作、「青~chung~」が浮かぶように。
ごく身近な<国際社会>を、日常感覚でとらえる、
ドラマ作りの視点に、近いものを感じるのだ。
やたらに力まず、声高にならず、
フラットな、日常生活的感覚で、
日本国内に住む、各国アジア人達の生活のドラマを、
悲劇含みながら、淡々と、
暖かい視点で描いているあたりは、好感がもてる。
貿易摩擦、国境を越えた恋、入国審査とファックスなど、
いくらでも生真面目に、描かれそうな多くの題材を、
あえて深刻ぶらずに、ユーモアたっぷりに、さらりと描いてみせる手腕は、
直接的コミニュケーションのあり方に、
悩む人々が多くなっている、昨今の日本を考えても、
大いに、評価されるべき収穫だろう。
ルームメイト青年と、留学女子学生、
バイオリン教室の少年子役、
傘を企画・開発する壮年男性らが、
ユニーク、かつ心憎い役割を演じているのは、
特筆すべき、なり。
さて、過去出品作品群からくる、
前述のごとき<既視感>は拭いきれぬとはいえ、
過去の映画イメージを、さまざまの形で踏まえつつ、
その中から一歩踏み越えた、イメージ飛翔の要素を、
垣間見せてくれた作品は、結構あった。
大別してみると・・・
(A)問題作ドラマ系の大ゴマが、
「私の叙情的な時代」「シュナイダー」「chain」「靄の中」、
(B)人間生活文芸派の中ゴマが、
「かたすみで、ヤッホウ」「一秒の温度」「恋愛革命」「彼女のファンタジー」、
(C)エンタメ路線系イメージの中ゴマが、
「夢の島」「大拳銃」「青春墓場~問答無用~」、
(D)絵画アート系小品佳作が、
「普通の恋」「彼女のファンタジー」「ソレダケ」、
(E)純粋ドキュメンタリー系が、
「Souda Kyouto He Ikou」(以下「SKHI」と表記)、
・・・といった、印象だった。
ただし、これはかなり、大雑把なイメージ分けであって、
それらの、とりあえずの印象は、
観た後で、なおも、若干、流動的ではある・・・。
たとえば、
母親のいい加減な行動のせいで、
高校卒業や進路独歩を、せきとめられている青年の、
怒りが静かにつのり爆発する、残酷物語でありながら、
同時に、温泉地ロケ、クライマックスの夕陽、桜などの風景描写が美しい、
飯塚諒監督・「靄の中」については、
(A)かつ(D)、ともいえる。
ドキュメンタリー・タッチの会話演出部分には、(E)の気配さえ感じられる。
又、当事者達同士にとっての、裁判心理の問題を扱っていて、
これも非常に残酷な、暴言・凶行連打がいたましい、
頃安祐良監督の問題作・「シュナイダー」は、
同時に、むちゃくちゃなローカル・ヒロインと、
<すみません男>や、地元住民達とのやりとりに、
黒いがユーモラスな場面をも、少なからず含んでいるため、
これは、(A)かつ(C)、だともいえる。
加納隼監督・「SKHI」(略称)などは、
今回唯一、完全なるドキュメンタリーとしての作品だが、
真冬の三人旅、東海道自転車旅行記、
しかもママチャリで箱根・鈴鹿越え、という無茶な企画ゆえに、
軽快な疾走感とともに、道中で次第に、
彼らのドーパミンが増してゆくにつれ、
たわいもない駄洒落レベルのギャグが、内輪のみでバカウケ、
という状況を呈するのが、興味深い。
この辺、まるでTVの旅行地バラエティーのごとくにも、見えてくるので、
観る側にとっての本質が、だんだん、
(C)にも近づいてゆくのが、感じとれる。
こういった、ジャンル分類をも越えうる、心揺さぶられる不確定要素が、
佐々木想監督・「ぴゅ~りたん」
松村真吾監督・「かたすみでヤッホウ」
佐々木靖之監督・「VISTA」
岩永洋監督・「ソレダケ」
・・・などには、やや少なかったようにも、思われる。
70年代風男女青春逃亡悲劇・プラス・80年代ホラームービー回顧(注2)、
男性でも若き日が身につまされる、バイト女性就職苦労話(注3)、
映像カメラマンの、ミステリーゾ-ン的?男女めぐりあい奇談(注4)、
雨にぬれる思春期前少女の、一時的な寂しさと、母への慕情風景(注5)・・・
などなど。
狙い通りのイメージ作りで、わかりやすく、ブレが無い、
それらは、大変、感情移入をしやすくて、
作り方としては誠実で、決して、間違ってはいない。
だけれども・・・。
それぞれの作品内世界が、そこだけで止まって、自己完結しており、
そこからイメージが外へ、飛翔して出ていこうとしていない、
すべてをワンパックに、押し込めてしまっている、窮屈さ、というのか?
そんな印象を与えているのが、ちょっと、惜しいのだ・・・。
例年、観ている者ゆえの、
贅沢なおねだり?なのかもしれないが・・・。
そしてその空気は、
昭和エンタメ映画路線(シリーズ路線映画)イメ-ジ再現を狙って、
きわめて上質に、その試みに成功しているはずの、
「夢の島」「大拳銃」「青春墓場・・・」の3本ですら、
時折ちらっと、感じとられるようにも、見受けられるのだった・・・。
鳶哲一朗監督・「夢の島」では、
往年の、商業系白黒映画のイメージを大事にして、
見事すぎる程の、細かい再現描写がなされているのに、感嘆させられる。
その世界の中にあって、ヨーロッパ人的容貌を持った主人公が、
市井の中に潜んで、環境保全上問題のある者達を狙った、
個人で社会的犯罪行為を行なう。
闇夜を駆けるその姿は、まさしく、<好ましき映画スター>のイメージ。
「確かに悪い行ないだが、彼がやるなら・・・?」みたいな印象を、与える。
追う刑事役や、女性歌手とのやりとり、
青年が世話する、病みがちな少女との交流、と、
ドラマの見所も、押さえられている。
特に中高年役の俳優陣は、皆、いい顔をしていて、
これぞ日本映画、という雰囲気作りの支柱を、
しっかりと担っているのが、たのもしい。
わずかに、不満があるとすれば、
それらの<昭和的>イメ-ジが、あまりにもよく出来ているために、
劇中に、PCやコンビニが出てくると、
えっ、やっぱり平成じゃないか!と、困ってしまう点だろうか。
携帯の印象を、少なめにしたのは、正解だったが・・・。
歩きながら会話中の刑事達に、いきなり社長が割り込んでの登場も、
唐突な感じが、した・・・。
しかし、ドラマも人間描写も、大変よくできている。
人間の、<心>がある、手ごたえ。
フィルムからデジタルへ、という技術変革の影響も大きいとはいえ、
こういう手ごたえが、なんで今、
多くの映画に、足りないような気がするのだろう・・・?
(舞台挨拶で、監督が隊員姿!なのは、大ウケだったなあ・・・の声)
奥田庸介監督・「青春墓場~問答無用~」も又、
監督の深作欣二&B級ホラー・テイスト魂が、
たっぷりすぎる程、ラーメン大盛り!されており、
観ていて、大変面白い。
血なまぐさいシーンや、足蹴り暴力のキライな人には、
かなり、嫌われるかもしれないが・・・。
序盤で植木等映画のごとく、お調子者の主人公が、
因縁のある組織の、不良な兄貴分にボコられるや、
武闘モード全開に変貌、
同居中の、浮気症女のピンチには、
強烈変態男と、対決。
その濃すぎる、閉所充満バトルには、ただもう、圧倒される。
屋外から閉所へのエネルギー収束、というやり方は、
男性向けアクション映画では、効果的手法。
もろに中小規模の、同時上映プログラム、という印象だが、
テイストと迫力は、大いに買える。
その点、大畑創監督・「大拳銃」では、
感情移入の要素を、意識的に排して撮られている分、
大人っぽい、クールな印象とひきかえに、
エネルギー収束の力が、やや拡散していたような気がする。
人物達の言動や画面の動きが、面白さとして弾けきらない、
もどかしい印象を、与えられた。
物語の初めから終わりまで、熱情からひたすら距離感を置いた、
クールな、作劇と空気。
登場人物たちが、徐々に追い込まれてゆく、
ダウナーな心情の吐露と、緊張感とが、長く持続する。
工場での余儀なき拳銃密造、
依頼者の厳しい注文、支払いの引き伸ばしなど、
ドラマのアイデアとしては面白いのだが、
観ていて、あまり、いい気持ちでは、ない・・・。
暴発・負傷のシーンでは、一瞬、目をそむけたくなってしまった。
演技者達が、がんばっているのは、わかるのだが・・・と。
つまりは、マジの、技術者ハードボイルド、なのだ。
自主女優・宮川ひろみ女史も、
大いに目立つ役どころで、出演。
いかにも、ブータレてて、
かつ、いろいろと・・・痛そうな、感じだ。
クライマックスのはずの、爆発が、
ミニチェア?とわかってしまうのには、ちょっと、苦笑した。
せっかくそこまで、ハードに引っ張ってきたのに・・・
あれは勿体無いかも、と。
(附:後に、ラジコンと判明す)
不景気の昨今、いささか、つらい内容ではあった・・・。
中嶋祐介監督・「彼女のファンタジー」は、
室内シーンの長さと、テンポのあまりのゆっくり度ゆえに、
窮屈さと、すれすれの線、ではあるのだが、
妄想シーンと連動で頻出する、
屋上の水タンク(何であんな所にまで!)の使われ方等により、
かろうじて、作品世界の閉塞をまぬがれ、
屋外や池へと、イメージ空間の広がりを、示している。
(B)なんだけど、(D)にも近いところがある、といった位置。
そういう視点でゆくと、
木村承子監督・「普通の恋」は、純粋に(D)だが、
本筋が「盲獣」「砂の女」みたいな、監禁物語(!)でありながら、
この作品、世界が閉塞している、という感じは、
意外なほどに、無い。
(勿論、こりゃ一種の、地獄だけどな・・・の声)
作品内でのイメージ世界反復が、大いに効果を上げている。
男性経験の無いらしい、読書好きの女子高生と、
女性経験の浅いらしい、少々ドジな男子受験生が、
主として、女子高生側のリードにより、
妄想のふくらみまくった、独特の世界を、画面に現出させてゆく。
やや明るいが閉塞した室内と、外部世界、
さらには、きわめて舞台劇的なセットとTV、
砂と、アゲハ蝶?等のイメージが、
編集の妙とともに、連打され、
数々のアート・イメージが、頻繁に、映画内を往来している。
小規模ながらも、幻夢的迷宮世界を、
ちゃんと形成して見せているのが、実に面白い。
武田真悟監督・「恋愛革命」は、やや(C)に寄った(B)。
女性独占欲の強いストーカー男に、振り回されたヒロインが、
絵画の先生にも言い寄られ・・・というわかりやすい話が、
かっちりと出来上がっているまま、ほぼTVドラマ風に、進行する。
比較的明るめの画面に、花や装飾を小奇麗に配したためか、
それほど、全体が暗い雰囲気にはならないのと、
とんでもない結末には、
「いいの?それで!70年代じゃ、ないんだよ!」
と、戸惑わされるため、
こちらも、典型的ドラマ・イメージからは、
わずかながらだが、はみだしている、といえる。
ずらし、とでもいおうか。
井上真行監督・「一秒の温度」は、
内容的には明らかに(B)でありながら、
(C)の要素をも持ち合わせている。
小説家志望、父母と3人暮らし、バイト中、
要領悪く、青臭く、いきあたりばったり、
ドタバタ疾走だらけで進行する、主人公の言動に、
ユーモラスな要素が多く含まれていて、楽しい。
この主人公、終始ぶつぶつ自問自答していて、
そここそが、作品のテーマ兼ナレーションになっている。
正しく、文芸的主人公、なのである。
大晦日の景の、友人画家一家の、
あれあれ!な悲劇的展開のあざとさと、
一部台詞の聞き取りにくさを、大目に見れば、
総体としては、なかなか、面白い眺めではある。
画家の妹とのドライブで、小さな見栄を張りつつ、
遭遇した突発的事態に、
中村主水のごとく?保身行動に移るあたりなどは、
そこまで悩むか!と、ある種の感銘すら感じられ、
ついつい、うなずいてしまうのだ・・・。
人物達と映像で演じられた、悲喜劇文芸小説、といっていいだろう。
真面目な話、ノベライゼーションにしてみたら、いいのではないか?と。
さて、その後、31日(金曜)には、
午後4時半より、受賞結果の発表があった。
この日は、夕方まで仕事のため、
フィルムセンターには、表彰式の終了後に到着。
そして、既に始まっていた、グランプリ上映作は・・・
「一秒の温度」、だった。
そうか、それできたか!
井上監督、おめでとう!
えぐいながらも、奇妙なる存在感を示していた、
「シュナイダー」と「青春墓場・・・」が、
無冠だったのが、ちょっと意外だった・・・。
後は概ね、素直に納得できる、受賞ラインアップだった。
さて、来年はつつがなく、行なわれるのだろうか・・・?(注6)
以上。
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- 2009/07/31(金) 23:30:51|
- インディーズムービー
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