壱の、日記。
土曜午後、16時、京橋・フィルムセンター。
<逝ける映画人を偲んで>第一部より、
熊井啓監督の名作、「帝銀事件 死刑囚」。
ロビーと客席は、年配層男女がメインだが、
20~30代も、結構、来ていた。
「刑事一代」を観て、来たと言う人も、
ちらほらと・・・並んでいた。
大変、ひどい事件なのと、
被疑者周辺の男女の、世間の非難に悩む姿が、
やはり、いたましいものがある・・・。
取調べや証拠固め、証言集めと報道、裁判のあり方等、
今日でも通じそうな問題点が、本当にアラカルトで、出ている。
皆が、敗戦の記憶を引きずっている辺りは、時代を感じさせる。
しかしながら、
新聞記者サイドの取材合戦で、互いに出し抜きあう辺りや、
被疑者証言が、二転三転してゆく辺りなどは、
不謹慎だが、ついつい、笑ってしまうのだった・・・。
本当に、事件の<真実>って、
なかなか、わからないものなんだな・・・
と、つくづく、考えさせられる。
当事者達ならずとも、
何を信じれば、いいのやら?
と、言う気持ちにも、なろうというもの。
それもあって、ロマンス・シーンの台詞は、
一服の、清涼剤、なり。
この日、思いがけず、
亀有名画座時代の、年配の観客先輩氏に、ばったり再会、
鑑賞後、歓談、しばし時を忘れる。
同日夜、20時半、少し前より、東中野。
松江哲明監督のドキュメンタリー、「あんにょん由実香」。
ついに、初日を迎える。
シネマ・ロサで予告編を見て以来、
この日を、ずっと待っていたのだ・・・。
何しろ、AV界やピンク映画界で、相当のロング・ランナーだった、
女優・林由美香さん関連の、
新発見ソフト(!?)検証をも含めた、
日韓両国にまたがる内容の、追跡・取材ドキュメンタリー。
これだけでも既に、興味津々。
しかも取材者は、この同じ場所(当時の名称は、BOX東中野)で、
「あんにょんキムチ」を公開していた、松江監督である。
勘からいっても、面白くならないはずが、無い。
これを見逃す手は、無いではないか!と。
入りはすこぶる良く、たちまち、
補助席まで、満席に近くなってゆく。
業界内外での、関心度の高さが、伺える。
(都議選も、びっくり・・・?の声も)
2005年6月、
つまり、このブログが始まりかけた頃、
女優・林由美香さんは、突然、この世から消えた・・・。
AVからピンク映画、自主映画、
果てはNHKドラマ(!)にいたるまで、
あまりにも多岐にわたる、無数の作品群に出演しており、
かつ、80年代から、新世紀にまで及ぶ、
まれなる、ロング・ランナーだったため、
いまだに、全出演作を観れた者は、誰もいないといわれる・・・。
その姿と、独特のマイペース?なキャラクターは、
今日にいたるまで、なお、
多くの人々、特に、映画関係者の記憶に、
鮮明に、とどまっているという・・・。
亀有名画座で、ピンク映画祭が無かったら、
小生は、この人の存在を知ることもなく、
人生を、終わっていた事だろう・・・。
そして、「女優 林由美香」という、
彼女の軌跡を、可能な限りまとめた、
資料単行本が、出版された・・・。
これらの事が、今回の企画への、新たなる出発点となっている。
云ってみれば、映像が多数、残っていることも併せて、
数多くの、同時期活躍女優がいたにもかかわらず、
最早、<ピンクの美空ひばり>みたいな存在、なのである。
その林由美香さんが、
なぜか、韓国向けのエロビデオにも、出演していたことが、
没後になってから、判明した。
まったくひょんなきっかけから、発見されたのだった。
タイトルが、「東京の人妻 純子」・・・。
(シンプルかつ、いかにも、怪しい感じだ・・・の声)
この珍妙、かつアバウトな、発掘ビデオ作品の、
ダイジェスト的紹介が、まず、なされる。
そのビデオが、発掘されたいきさつも、
証言者により、たっぷり、ユーモラスに語られる。
これが、一体どんな成り立ちで、作られたのか?を、
松江監督が、追跡してゆく。
併せて、日本のAV業界や、ピンク映画関係についての足跡をも、
ごく一部の作品とはいえ、なるべく細かく、紹介している。
又、一部の監督・女優とは、撮影現場を訪れ、
移動時やポーズの、再現?等も、やっているあたりが、
彼らの思い出と、二重構造というか、
ちょっと面白い眺め、なり。
生前親交があり、自分なりの思いを含めて、
由美香さんに関しての映画を、
しかるべき形に、まとめておきたい、という、
松江監督のナレーションが、
新旧の映像と、交錯する形で、
インタビューがいっぱいの、ドキュメンタリーは、進行する。
驚いたのは、韓国と日本で、
俳優業界のルール、あり方が、大きく違っている?らしい所。
日本は恥の文化、などとは、かつてもよく言われたものだが、
韓国俳優界の気難しさも、
これが事実ならば、思っていた以上に、相当なもののようだ・・・。
厳しい学歴競争・人気競争社会ゆえの、硬さがあるのだろうか。
考えさせられて、何だか、気の毒に見えてしまった。
それにつけても、由美香さんに関わった人達は、
ほんとに皆、あの人が、スキだったんだなあ・・・
と、彼等の抱いた思いを、
あらためて、見直すのだった。
ピンク映画観客たる、自分自身の、
それなりに淡い、思い出についても、
自身なりの、おさらいをし、
何がしかの、けじめ?みたいなものをも、つけようとしながら・・・。
でも、やっぱり、いわゆるファンで、あり続けるんだろうな・・・?
などと、つぶやきながら。
上映後の監督トークも、和気藹々としたもので、
「初日に、大勢来てくれて・・・」と、
監督も、満面の笑み。
20・30・40代、男女ともに多かった客席は、
ほほえましくも、気持ちの良い笑いに、包まれていた。
さて、初めての人々には、
どの程度、内容が理解されたのだろうか?
気になるところである。
とにもかくにも、ここから、
新たな何かが、既に、始まっていたのだった・・・。
以上。
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- 2009/07/12(日) 09:29:50|
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