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シネマ旅の途上にて

自主映画ウォッチャー、アWorkerのブログ。

主水、裏技仕掛けで勝負する

主水日記。


さっきまでTV放映で、「赤い月」を観ていた。
海外大陸ロケらしい大作感こそ出てはいたものの、以前テレビ東京でやっていた高島礼子版ドラマに比べると、随分大雑把に跳ばしている。

数奇な運命に振り回されつつ、たくましい意志の強さと立ち回りで生き延びる人妻、
大陸での時局迎合商売でのしあがった夫、
罪の意識にさいなまれつつクールに任務を実行する男、
人妻の元の恋人である軍人、
人妻と夫の子である姉と弟、
というメンバーが、終戦時の混乱に翻弄される話だが。

生き延びるためとはいえ、人妻の言動が初めからあまりにも自由奔放かつ能天気にすぎるため、単に男好きで、ホイホイ男を乗り換える女にしか見えず、逃亡の苦労も何も、まるで胸を打たない。
こんな人、子供2人の言うとおり、さっぱり理解できない。
お色気シーンがきれいという以外は、腰砕けの一篇だった。


さて、先週、「犬神家の一族」以降観た、劇場用映画。

フィルムセンターで「ザ・タイガース 世界はぼくを待っている」。
GSサウンズ・ブームのアイドルバンド映画。軽めのドタバタ。
バンドの音響でUFOの運転が乱れて不時着!アンドロメダ星の姫様がジュリーにベタ惚れ、追い回す宇宙ロボット、ファン女性達、なべおさみの付き人、小沢昭一の刑事らと一悶着。小松政夫は追っかけお嬢様のお付き役。
<星の王子様>が案の定、円楽。ろくな星じゃないな・・・。
銀タイツの天本英世、珍しく情けない役。
<シーサイド・バウンド>でUFOから「さあ、皆さんも、ごいっしょに!」、でもフィルムセンターのお客はやっぱり、反応しなかった。


三軒茶屋で「紀子の食卓」(後述)。

シネヴェーラ渋谷、丹波哲郎特集で「怪談 累ヶ淵」、「お熱い休暇」。
片や「牡丹灯篭」そのままに、愛と嫉妬でおどろおどろ、半分はヤサ男の優柔不断が悪い。真冬なのに納涼向け。若き丹波は酷薄な陰謀浪人、ひでえ奴。因果応報・・・。
片や、三木のり平の観光客とと丹波哲郎のスパイがバンコクで珍道中、松岡きっこもガイド役で巻き込まれて、まるで「バーディー大作戦」。
ロケ自体がのんきに慰安旅行?な気分。現地へ行くよりは安い。

新宿で「007/カジノロワイヤル」。
華がない?筋肉質男、ダニエル・クレイグ起用のゆえに前評判が悪かったのだが、観たら意外に良かった。
脚本が原作寄りにリアルに、ハードになっているからだろう。
TVの「水戸黄門」が石坂浩二版で史実を入れて最初からリニューアルしたのと同様、原点回帰に徹したのがニュー・ボンドの渋い魅力につながった。
この筋なら、スターっぽくなくても大丈夫。
組織内部の裏切り者処分、お色気人妻口説き、きつめの台詞で挑発するヒロインを軽くいなし、カジノでの丁々発止、ブラフをかましあう心理戦、水没シーン、と見所のつぼはしっかり抑えている。
クールな新任ボンドがグラッ、とたじろぐ落差、人間くささがたまらないのだった。


特に心を揺さぶったのは、「紀子の食卓」。
新作「007」と並び、意外な出来の良さ、人間くさいドラマとしての、コクの深さがあった。
さて、どう語ったものだろう・・・?


恐怖のどぎつい、痛い血まみれ心理ホラー「自殺サークル」の続編的色彩の強い、園子温監督の「紀子の食卓」。
これまた、奇妙な快感とどぎつい不快感が交互に襲い来る、あなどれない秀作となった。
ただし前作よりは、その硬軟のさじ加減は多少、好ましい。
前作を知らなくても、そのねじくれきった青春心理サスペンスを理解することは十分に可能、なり。

友人の風俗嬢化、高校での広報部活動、ネットサイトでの同世代通信交流等を通じて<外の世界>に目覚め、親に反発、平凡な田舎の町から家出し上京した女子高生の長女・A、

そのネットサイトの仲間達を都会で受け入れ、奇妙な<仕事>を手伝わせて組織に引き入れていく、他人の<下手な演技>にひどく神経質な<演技派>女性リーダー・B、

後から同じサイトを見て、もし自分も家出したら親がどうなるかをシミュレーションしてみた上で、自らも姉を追って家出する次女C、

A・Cの家出に悩んだ母親の死後、新宿の集団飛び降り自殺事件の報道を足がかりに、新聞記者の勘で娘達の後を追って真相にたどりつく父親D、

という4人の視点から、各人によるいささか過剰なまでのナレーションとともに、時間を一部前後しながら、いつもの園監督流に年中揺れる画面と疾走するリズム感の中、ドラマがスピーディーに進行する。

変わっているのは、BがAやCをリードしている組織の仕事が、ある種の想定芝居、そのための<演技力>を必要とする仕事であること。
しかも、いささか自己啓発セミナーじみてもいる。
のめりこみすぎると、想定芝居中のまま、壮絶な死を迎える場合も・・・。

Bの時折見せる過度な苛立ち、逆ギレの一因も、その職業病ゆえに発している。
自らの過去をふっきり、あるいは人生の空洞を埋め、生活史すら<想定>で作って暮らしている仕事。
演技の才能を発揮して、相手の孤独感を一時埋めてあげる稼業。
見ていて何だか、涙ぐましくすら見えてくる。
しかし、<時間切れ>だからといって、感情芝居に移入しかけたお客様を「お前、大人だろ!」と怒鳴りつけるのは、ごひいきが必要な<接客業>らしからぬ失態ではないのか?

さて、押井守の漫画でも読まされている様な、それらの迷宮の延長上に・・・
Dはもう一人の人物Eを呼び、想定芝居の世界にのめりこみきったA・B・Cとの間接的コンタクトを仕掛ける。
かくて、A・B・C・D・Eが同席する、<マジ姉妹&ニセ母>VS<ニセ父&マジ父>という多重構造の、とんでもなく緊迫した猛烈演技バトルが展開する。
ここらで観客は、もう、頭がクラクラしてくる・・・。

そうした過激な状況の果てには、最早、何が本当で何が嘘かなど、何ほどの事でもなくなっている擬似世界がある・・・。
そして、更にそこからの逸脱を目指すべく、ある見事なる結末が用意される。

心理芝居にたっぷりと振り回された後、人と人のつながりって一体何なんだろう?と嫌でも考えさせられる、辛辣なる秀作。
この要領で園監督、十分、「Gメン’75」が撮れるだろう。



以上。







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  1. 2007/01/26(金) 23:11:24|
  2. 劇場用映画
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