主水日記。
渋谷シネマ・アンジェリカ。
ショート・フィルム・フェスティバル。
A・B・E・Fプログラム。
そこには、ふとした日常の隙間からエアポケットのごとくストン、とすべり込んだ様な、ちょっとだけ奇妙な世界の数々が、広がっているのだった・・・。
以下、作品短評。
Aプロ:昭和
倉田ケンジ監督「緋音町怪絵巻」40分
奇妙な゛昭和 ゛の海辺の、とある田舎町。
ジュリーが女子に大人気、まではありがちだが。
ここの海辺にはなぜか水神様、と呼ばれる怪獣(ある生物・・・そのまんま)と自衛隊の戦闘が。
ミステリーサークルは出るし、せこく町民に物納をさせる便乗神主達は居るし、某解説者(呼んだのかよ!)は来るし。
オカルト現象だらけの町。
しかし、町の人々はとっくに、慣れっこになっていて・・・。
ドラマの主軸はもっぱら、地元の人気者らしき酒飲み女(夏生ゆうな)とスポーツ万能女子高生が次々と、交際目当ての男性達から猛列アタックを受けるエピソードの羅列、
そして女子高生は弓道場で憧れの人に出会い、というありふれた初恋物語にある。
ヒロイン達の悪びれない、屈託のない表情がいい。
すべての事はどこかのヨーロッパ映画にあるがごとく・・・
あくまでも<平穏なる日常>として淡々と、同時進行してゆく。
そうしたあまりにものどかすぎる光景が、すべからくユーモラスで、どこかいとおしい。
社会生活を営む町民にとっての日常とは案外、こうしたものなのかもしれない・・・?
廣田正興監督「代々木ブル-ス 最終回・地図とミサイル」63分
日テレ系アクションドラマ「傷だらけの天使」「俺たちは天使だ!」「探偵物語」あたりの線でイメージされた、とおぼしき私立探偵もの。
ただし、設定は平行世界で゛昭和80年゛。
国際情勢悪化で都市上空には常時、ミサイルが飛ぶ。
とんでもない<日常>なのが、緋音町と同様。いや、それ以上・・・。
そんなやばい状況などお構いなしに、はしゃぐ季節をやや過ぎかけた青春後期の探偵コンビ(鈴木一真・長谷川朝晴)、助手ガール(菜葉菜)、姿を消した逃がし屋の兄貴(永瀬正敏)、盲目の刺客男(吹越満)、女劇団員、劇団とつながる裏稼業グループ、などをめぐって狭い範囲での調査、失恋、攻防戦のドラマが入り乱れて展開する。
2人がところどころで、走る。部分的にだが画面に、運動性が宿る。
舞台劇にも向いた発想が、後半目立つ。
ヒロイン・菜葉菜の出番が後半激減して、やや不満。
既存の探偵ドラマ式の範疇にイメージがすっぽり、収まってしまいがちなのが難点だが、皮肉にもミサイルが狭い世界観に風穴を開ける。
アドバルーンを生かして使い、もうワン・リアクションできないか・・・?
主役コンビはよく走り、適度にうじゃじゃけて荒ぶり、まずまずユーモアと魅力を放つ。
それにしても、ある人物の、着地シーンが見当たらないのは、何故?
ワンカット程出した秋桜子、バッチリ!(その衣装できたか。)
Bプロ:楽園
梶田征則監督「地球の魅力」48分
オール・モノクロ。
すべての舞台となるアパートの部屋が・・・
狭い。薄暗い。
しかも、空間が次第にせばまってくる。
人物達がどんどん、狭い空間に追い込まれてゆく。
ものものしい防護服を着ている2人の来訪者達と住人一家4人の、たがいに遠慮しあったぎこちなさ、壁の向こうから常時響く工作機械の騒音、一家の主人(杉本哲太)のイライラした不機嫌顔、移動したテーブルの不安定ながたつき、などがいよいよ不安な空気をかもし出す。
要するに・・・息苦しい。
つまり、ここは放射能汚染が進行した未来の地球。
周囲の住民達が次々に避難所へと去り、政府の薦める火星への移住を始めている世界。
そんな世の中にやや不信感を抱く主人。
来訪者の住宅会社員達が一家に状況説明をしつつ、ガイガーカウンターで各部屋の汚染レベルを計る話が、えんえんと続く。
かんじんのマイホーム計画の話がなかなか始まらず、観ていて「まだなのか?!」とじらされる。
で、ようやく予算と土地の環境に配慮したモデルプランが発表され、一番積極的なはずの主人は条件的にやや不満顔、で、家族は・・・?
結局、よくあるマイホーム・パパの苦労話のパターンに落ち着くこじんまりさ加減が映画的空間イメージの広がりを妨げ、小さくまとまっているのが惜しい。
狭い空間の芝居だからこそ、地球儀と星座表から星空を想う、その外部イメージへの広がりを、もう少し垣間見せてほしかったのだが・・・。舞台劇と映画は違うのだから。
ラストは、皆、いい顔になったね・・・と。
岸本司監督「忘却の楽園」47分
沖縄らしき島で起こった、チンピラやくざと組員達にありがちらしき内輪もめ。これに謎の女(又、夏生ゆうな)と能天気な殺し屋斡旋業者がからむ。
男達が皆、アロハシャツで過ごし、青い海と砂浜とおばあと女を眺め、晴れた屋外で密談?し、村道を走り回っているのが南国らしい。
ほぼ全員、方言丸出し、随所で一気にしゃべりまくる。
その対話のけたたましさを含んだ疾走シーンの連なりが、作品全体に独特の軽快なリズムを形成する。
しかしながらそのリズムは大半、南の島ならではの暢気な風土性?の中に順次回収され、結局は呑み込まれてゆく・・・。
資金の持ち逃げ、ハメられて疑われ消されかけたチンピラ青年、裏切って悔いる友人、組織による処刑、逃亡、愛人殺し、逃走ドライブ、ゲイの気のある殺し屋達、ドンパチ・・・と、これまたありがちな展開。
結末も概ね、察しがつくものだが、切羽詰った逃走劇と銃撃戦のはずなのにもかかわらず、奇妙なのどかさ、時間感覚の余裕が全体に流れ、本土が舞台の<一般的>緊迫の抗争劇とはやや違った味わいが認められる・・・。
街中、というよりよろずや広場でのど派手なドンパチだけが、「ヒート」みたいで、やたらに力が入っていた。
青春&ハードボイルド・アクション志向の映画でありながら、同時に反アクション方向へもうながされる、という不思議にねじれた印象の作品。
Eプロ:異色
小沢和史監督「僕は一日で駄目になる」27分
これ、以前観たかも知れない。
今回の特集で多分最も、のどかな作品。
茶畑の多い故郷に帰ってきた、自称アーティスト青年。
頭がベートーベンみたいだ。
都会で売れてないらしく、池の前で舞台挨拶の真似などしている。
彼が実家周辺を徘徊し、赤いマフラーをした自称<ネパールの喫茶店帰り>の女性と暫時語らい、父母と漫才めいた対話をし、庭の大きな石を動かそうとする、というだけの、それこそのほほん茶とした味わいの1本。
とことん何も無い。アクションすら無い。
わずかに自転車の警官を女性が倒してしまい、青年が逃げよう、と言う場面のみがアクションの兆しにも見えるものの、状況があまりにも小規模なため、観ながら苦笑する他ない。
母親とマフラー女性のキャラが、ちょっとユーモラスなり。
あとは・・・岩山と、石。
ささやかなる散策。風景画。
そういう映画である。
藤井徹監督「イッテ!」30分
取立て屋の男達と将棋会館の店主親娘、助っ人つきの将棋指しで権利書を賭けて、どん詰まりの勝負!
が、かんじんの人物が現れない・・・
「月下の棋士」そのままに、武蔵と小次郎の世界。
ただし、全体にコントそのものの・・・展開。
佐藤隆太&遠藤憲一、火がついたら止まらない。嵐を呼ぶ男達。
まあ、そこそこ楽しめます。たとえ将棋がよくわからなくても。
いちいち隣に居る人の真似をする山本政志(注1)が可笑しくて、大笑い。ぼそぼそとつぶやき独自な存在感。
醒めてるようでも勝負にやきもきするヒロイン・菜葉菜を覚えておこう。
なお、この映画には一瞬、山内洋子監督の姿が・・・!
高橋亨監督「極道忍法帖」30分
待ってました!ようやく公開に。あなめでたや。
Vシネ派とシネマ愚連隊メンバーズのコラボ。(注2)
江原修、小沢和義、成瀬正孝、菅田俊・・・。
面子が見るからに、もろ広島極道映画色。すげー。
森の中、いきなり宮川ひろみ登場、くの一と覆面忍者達が派手に斬り合う!
老いたる組長の跡目をめぐり、大幹部の一人がしびれを切らし、今や内紛・クーデター寸前状態の、とある裏組織。
そこに属する中堅幹部氏、下克上作戦やる気まんまん、イケイケ状態の手下達とともに車を転がしていたが・・・。
唐突に、森の中で一同、日常の延長のごとくタイムスリップ、くの一(またしても、夏生ゆうな)を追い詰める忍者合戦に遭遇。(あまりにもあっさり時空移動するので、ちょっと笑う。)
たちまち乱戦、血まみれ、死者続出。
なんじゃこりゃ~!なぜじゃ!どうしてじゃ!(間勘平談)
どうやらこちらの世界でも、壮絶なる裏切りと内紛が起きている模様なのだ。
他人事ではないものを感じ取った、男達の運命と、生き残った者の決断は・・・。
敵側忍者(小沢和義)達のけばけばしく荒ぶる有様、容赦なく、猛烈。
星野佳世のくの一が気の毒に見えるほど、やばい。
身軽な赤星忍者、目立つ。二段アタックに笑う。
(それ、TVアニメ・ムテキングのタコベーダー兄弟も、似た技やってたよ・・・の声。)(注3)
上本さん、「餓鬼ハンター」に続き、またしても・・・性(さが)だねえ。
愚連隊らしき血生臭さとアクション、荒唐無稽な技と武器(!)
カッコつけてた兄ちゃんさえも途中から呆然、たじたじに。
その落差キャラがいかにも、極道の男らしい、というべきか・・・?
ラスト、意外にあっさり収束。<予感>がほしい。やろうぜ、もう1ラウンド!(おいおい・・・)
今回の8本中で一番すっきりと面白いのは、まず、これだろう。必見。
Fプロ:部屋
笹木影人監督「隣人観察日記」30分
文字通り、隣は何をする人ぞ、という話。
とある朝のアパート。
変に派手なキラキラ服を着るスキンへッドのお隣りさんa。
その隣人を観察し日記につけるだけのために仕事も辞めて部屋にこもり耳をそばだてる暇人男b。
そのbを訪ねて入ってきた友人cと、婚約者女性d(またも菜葉菜)。
そこへ別な部屋に住む隣人eも入室。
やがて、不気味な悲鳴がaの部屋から。
あわててお隣を呼び出すと、まるで違う人物fが出て応対。
犯罪の気配?を嗅ぎとった一同はおびえ、b・c・dは警察に知らせようと言い出すが、eがあるワガママな理由で反対する。
そこへ更に,別な部屋に住む人物gが乱入しようとし・・・。
見ていて「勿体つけずに、なぜすぐ通報しない!!」とじれったくなる。というより呆れ果てる。事態を一番悪化させたのは明らかに、e。
大勢がいっぺんに、怪しい隣人と応対しのぞきこむシーンが異様で、ひきつった笑い顔が可笑しい。後には恐怖が・・・。
都会における住人たちの相互無関心・無理解をスケッチし、少しだけ拡大した印象。ま、そんなもんでしょ、という感じか。
大嶋拓監督「いくつもの、ひとりの朝」40分
女子大生・真奈美(清水美那)。
母、妹と3人住まい。
リストラ後に家を出た父(郷田ほづみ)とは別居中。
戻る気はあるのか、ないのか。
つきあっていた大学の教授らしき年上男とも、最近は微妙な仲の真奈美。
ある日、大学で同級生の青年を誘って、温泉旅行がてら父の現住所を訪ねてみると、同居女性は・・・。
男達を振り回してきた女子大生が、父の言動を通じて己の生き方を見つめ直す話。
なんだかんだ云って、ファザコンから自立したかったのかも・・・?
普通のTVドラマ・スペシャル向け。
佐藤信介監督「死亡時刻」30分
(これも、どこかで観た様な・・・?)
人妻、間男、巨漢の夫、別の女性、の4人しか登場しないサスペンス。
人妻のおびえ方が、只事ではではないから、成立する。
ただでさえ閉所の上に全編、ピンと張り詰めた空気に満ちていて、息苦しい。肩がこるほど。
凶器でゴツン、は見るからに・・・痛そうだ。
科捜研の女にかかれば、すぐばれそうな証拠隠滅作戦に苦笑。
だが。
ラストの一言。
あれで、すべてがあほらしくなってしまった・・・。
いいのか、それで?
自業自得とはいえ、お気の毒な間男であった。マル。
以上。
(注1)「ロビンソンの庭」や「てなもんやコネクション」の山本政志監督。近年は舞台で悪役組長を演ずるなど、俳優づいている。「ゲルマニウムの夜」にも出演。
(注2)われ、一緒にやらんかいのう?てことですね。
(注3)あっちでは3段アタック。ただしすぐ破られた。
*なにげに、この回でブログ開設1周年!でしたよ。
皆様、今後ともよろしく、です。
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- 2006/07/04(火) 21:53:30|
- 劇場用映画
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